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札幌地方裁判所 昭和45年(ワ)422号 判決 1972年9月13日

原告

井上ユキ

右訴訟代理人

下坂浩介

被告

札幌市

右代表者

板垣武四

右訴訟代理人

黒木俊郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  原告

被告は原告に対し金一三万円およびこれに対する昭和四四年一一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行宣言を求める。

<後略>

理由

一訴外木村光男が昭和四四年二月当時被告の職員であつたこと、右訴外人がその後その地位を失つたことはいずれも当事者間に争いがない。

二ところで、右訴外人が一般の札幌市職員として退職手当支給条例の適用を受ける地位にあつたかそれとも単純な労務に従事する職員として単労職員条例の適用を受ける地位にあつたかについて原告の主張は明らかではないが、単労職員条例の適用を受ける職員の退職手当金の算出方法については一般の札幌市職員と同様に退職手当支給条例の規定に拠るのであり(単労職員条例施行規則五条二項)、退職手当支給条例に定められた退職手当は、基本的には退職の日における給料月額に勤続年数に応じて同条例三条一項に定める割合を乗じて算出されるが(退職手当支給条例三条一項)、長期勤続者の増率(同三条一項)、特に責任が重い職にあつた者や功績があつた者の割増し(同三条三項)、短期勤続者の減率(同三条二項)、傷い疾病死亡等による退職者の割増しおよび最低限度保障(同四条、五条、六条)などの定めもあつて、勤続に対する報償、功労に対する報償、退職後の生活保障の意味をあわせもつものであり、退職者に単労職員条例一三条二項または退職手当支給条例二条所定の欠格事由がない限り右条例の規定に従つて当然に支給されるものであるから、法律上労働基準法一一条にいう「労働の対償」たる性質を有するものというべく、これが支給については労働基準法二四条一項本文の規定が適用される結果、退職者の債権者が民法四二三条によつて退職者に代位して退職手当の支払を求めることは法律上許されないところといわなければならない。

してみれば、訴外木村光男が被告札幌市の職員たる地位を喪失した原因が如何にあれ、またその退職の結果訴外木村が被告に対し退職手当請求権を取得したと否とを問わず、原告の本訴請求は許されないものである。

三よつてその余の点について判断するまでもなく本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(稲守孝夫)

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